REVIEW|ひとりじゃないよー倉敷発・居場所づくりから始まる障がい児の保護者支援

ひとりじゃないよ 倉敷発・居場所づくりから始まる障がい児の保護者支援

|著者|安藤希代子(認定NPO法人ペアレント・サポートすてっぷ理事長)
|刊行日|2020年3月31日発行
|発行|吉備人出版

|団体運営者へのオススメ
・自分たちのミッション、ビジョンの見直しができる
・サポートしたい対象者について深く考えるきっかけになる
・NPOの設立、運営、集客、広報、収益事業の考え方を学べる

|障がい児の保護者へのオススメ|
・自身の子育てへの向き合い方が振り返れる
・誰かに頼っていいこと、誰に頼ったらいいか、わかる
・子どもの将来に前向きになれる

障がい児の保護者を包み込むような活動

岡山県倉敷市を拠点に活動する認定NPO法人ペアレント・サポートすてっぷは、本書のサブタイトルにもあるとおり、「障がい児の保護者支援」を行う団体である。
https://parent-support-step.jp/

倉敷市特殊学級親の会で7年間活動された安藤さんが、そこでできた仲間たちと任意団体を立ち上げたことがスタートだそうだ。そこから始まり、NPO設立、本書執筆に至る時期までの活動について、とても丁寧に綴られている。

本書を読んでも(読んだからこそ)、どのような活動なのかは一言では言い表せないが、とにかく障がい児の保護者一人ひとりに心から向き合おう、向き合いたいという想いがあふれている。その根底には、理事長の安藤さんが経験された、ご自身の障がいのあるお子さんの子育てにおける孤独や支えてくれた人たちへの感謝があるように感じられた。

それを表すような言葉が本文中にある。

今の活動はきっと、過去に救えなかった自分のためにやっているのだろうと思う。誰かの力になろうとすることは、結局、過去に救われなかった自分を救おうとする行為なのだ。

だから、活動の根幹をなす仕組みや、活動の深さ、範囲を検討していく際にも、ご自身の経験、ご自身が支援される立場であったときの思いに立ち返られている。障がい児の保護者の居場所である「うさぎカフェ」の運営方針でもそれは感じられる。

全国それぞれの自治体には、子育てサークルや親子カフェのような拠点が作られていることが多いが、安藤さんはそうした場所はキラキラしたお母さんたちがいる「太陽」みたいな活動で、子育てを楽しんでいるように「見える」お母さんたちと、企画されたイベントを楽しめる子どもたちが集まる場であって、障がい児の親は入っていけないと言う。

それに対して、「うさぎカフェ」は「月」のような場所であって、弱っている人を、強すぎない光で包み込む場だという。役割も次のように紹介されていいる。

●毎日でなくてもいいから、続けることが何よりも大事
●「この日になればやっている」「行こうと思うえばいつでも行ける」ということが安心感につながる
●何かを教えたり学んだりする場ではなく、ゆるやかにつながり、常に手を広げて待っている場所
●存在そのものが、親支援の必要性を社会にアピールすることにつながる

4つ目は同法人の目指す社会に向けた役割だが、他の3つは、まさに、安藤さん自身のお子さんが小さかったころ、誰かに相談したかったころのことを思い出し、その当時の自分自身を救うように活動の幅が決められている。

また、同法人のミッションとビジョンは次のように記されている。

《ミッション》
障がい児の保護者が、運・不運や住んでいるところに左右されることなく、支援の手とつながることのできる仕組みを作ること

《ビジョン》
障がい児の保護者が支えを感じながら安心して子育てができる社会の実現

まだ文字数が多く、もっと短く簡潔にしたいそうだが、本書を通して読むことで、安藤さんの原体験からメンバーとともにどのようにミッション、ビジョンができあがっていったのかを感じ取ることができる。同じような立場で活動を行っている人、これから活動をしたいと考えている人には、さまざまなヒントになるのではないだろうか。

自分自身の「受容」について

本書は同法人の成り立ち方活動内容、運営方法について語られているが、そのなかで出会った保護者の話、また著者・安藤さんの自身の原体験についても丁寧に語られている。

なかでも保護者が子どもの障がいを「受容」するプロセスの説明は、障がい児を育てる私自身を振り返えるきっかけになり、これからのビレッジの活動の方向性を見出すこともできた。

知識を得るだけでは完全な「受容」にはたどり着けないのだ。知識をつけるだけではなく、この子を育てていける、障がいあっても元気で明るく社会の一員となれる…そんな自信と未来への希望が必要であって、そうしたエネルギーと知識がバランス良くたまっていった先に「受容」が完成され、本書ではそれを「障がいのある子の存在が“腑に落ちる”」と表現されている。

そうした「受容」に至るまでに保護者は行ったり来たりするわけだが、それが「障がい児の親の子育て力を高めるための理解と意欲のマトリクス」という図でまとめられている。この図で、まだ小さな障がいのある子を育てている人には、少し先のエイドステーションが見えるかもしれないし、いまトンネルの中にいるのなら、出口の光が見えるかもしれない。そのトンネルは、抜けるとまたトンネルがやってくる。山陽自動車道の神戸〜岡山間のようなものだ。

だから、なんとなくでもいいので、本書を通して、「受容」というゴールにいつかたどり着けるのだということを知ってもらいたい。